心変わり 〜あんなに好きだったのにごめんね〜

今週のお題「雛祭り」

 

私の持っているお雛様はお内裏様、三人官女、そして五人囃子だけ。

徐々に増やしていこうと言っていた両親でしたが、

今も雛人形はこの10人のままです。

 

3歳くらいから

毎年ひな祭りに雛人形を飾るのが楽しみでした。

 

蓋をあけるとすぐ、ナフタリンの匂いが漂います。

見事にできた衣装が虫喰されないための防虫剤の匂いです。

子ども心に、大切に扱わなければいけないと感じたのでしょう、

お雛様たちの顔を包んでいるガーゼをそっと取り、

装飾品を包んである畳紙をていねいに開き

一つ一つ、一人一人 母と一緒に飾り付けていく。

他の人形とは衣装も髪型もまるで違う特別な人形たち、

大切な人形たちを飾るひな祭りは、私のお気に入りの行事でした。

あのことを聞くまでは・・・

 

あれはたぶん小学1、2年生ごろのひな祭り

友達が

「お雛様の髪の毛っていつの間にか伸びるんだよ、

 気がつくと伸びてるって知ってた?」と真顔で言いました。

「うそぉ」と言ったきり絶句する私

「ほんとだってば。見てご覧よ」

 

  ・・・・

 

何だか怖くて見られない、でも見てみたい

恐る恐る見てみると、そう言えば

三人官女の髪の毛が、出した時より伸びてる気がする・・・

 

夜になって小さい明かりがつけてあるリビングに行ってみると

ボーッと浮かぶ端正な白い顔、美しい雛人形が静かに並んでいます。

でもなんと言っても気になるのは髪の毛です。

こわごわ、でも目を凝らして見てみるとやっぱり伸びてる気がする・・・

怖い・・・

 

この友人は

「ね?伸びてたでしょう?」と嬉しげ。

しかも

人形の髪が伸びることになんの違和感も恐れも抱かずに。

と言うか、当然のこととして受け入れているようで

「髪をとかしてあげた」などと、とっても楽しげ。

 

  ・・・・

 

すごい!?

 

それにひきかえ、人一倍チキンな私

髪が伸びると聞いただけで、背中のあたりがゾワッとしました。

そのうち

薄明かりでも際立つほどに美しい白い顔、

無表情のようでほんの少し微笑んだようなその顔

こちらを向いているその顔でさえ

「やだ、今目があった?」という感じで怖くなりました。

 

そしてその年から徐々にお雛様への気持ちに距離が生じ

親密さが失われ始め

”去るものは日々に疎し”で

いつの間にか、お雛様との関係はフェイドアウト

 

そして長い時間が過ぎました。

雛人形は今も実家の天袋にあります。

大人になってから、

「お雛様を飾ろうかな」

「時々は出してあげないとかわいそう、

 衣装も傷んじゃうだろうしなあ」と何度か考えなくはなかったのですが

やはりなんとなく出せずにに今に至ります。

 

変なこと、怖いと思ったことには想像力が人一倍働く私、

実は箱の中いっぱいに人形の髪が伸びている光景が目に浮かぶんです。

だから開けられない。。。

「いい年した大人が何を言う」とお思いでしょうが

そこがチキンの悲しさ、変な想像力のたくましさ

結局今に至ります。

 

お雛様を飾らなくても嫁にいけたし「まあいいか」って感じで

雛人形の世話は次世代に任せることにしました。

 

私の友人は、大好きなお雛様に対して

とても子どもらしい素直な感覚で”生” を感じたんだと思います。

だから髪が伸びることに、何のひっかかりもなかったのかも知れません。

 

私もお雛様には何とも言えない ”生” を感じるんですが、

友人のとは明らかに全く違う感じの ”生” ・・・

それで心変わりしてしまった、あんなに好きだったのに。

 

健全な精神、素直な心をお持ちの皆様、

美しい雛人形を飾るひな祭りを

どうか存分にお楽しみくださいませ。