小説 ”Everything Everything” は、まさに Everything だった

今週のお題「読書感想文」

 

小説に対して、私は生意気で騒がしい読者だ・・と自分でも思います。

読みながら、ぶつくさ独り言を言うからです。

もちろん良いストーリーに大いに感動するんですが、

「ああやっぱりそう来たか、フラグ立ってたもんなあ」などと上から目線の知ったかぶり

かと言って、あまりに急展開だと、置いてきぼりを食った感じで

「え?なんでそう来るの?無理がありすぎでしょ」などと文句を言うからです。

 

ところが

最近読んだ Nicola Yoon 作の “Everything Everything”

私の「やっぱりそう来るよね」を満たしては裏切り

やがて来る驚きの急展開には、

「なるほど・・そこまでは読めなかった」と降参した小説でした。

 

ちなみに

私は知らなかったのですが、

この小説はワーナー・ブラザースが2,3年前に映画化しているようです。

この映画を見た方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

ざっくりとあらすじですが

 主人公は 18歳のマディソン、

 全ての物にアレルギー反応を起こす稀な免疫異常疾患 SCID のために

 家から一歩も外に出られない少女です。

 父と兄はかなり前に事故で亡くなっていて、

 長いこと母親と在宅看護師カーラと3人暮らし。

 

 ある日

 お隣に、父親のDVに苦しむ家族が引越して来ます。

 その息子、同年代の正義感溢れるオリーに惹かれていくマディソン。

 看護師カーラはマディソンとオリーがお互いに惹かれ合っていることに気づき

 母親には内緒で、2人をマディソンの家で引き合わせます。

 初めて母親とカーラ以外の人に対面したマディソン、

 強いアレルギー反応の発症を恐れながらも、

 ”初めての隠し事” と言う刺激もあって、マディソンは恋に落ちていきます。

 そして

 若い2人は危険を冒して、ハワイ旅行を決行します。

 

ね?「やっぱりそう来たか」でしょう?

クオリティ・オブ・ライフを優先したラブストーリーだと思いますよね。

 

 アレルギー反応は全く出ず、ハワイを満喫する若い2人・・・

 

「まさにフラグだ!」と思いますよね。

 

 そして、突然彼女の心臓は止まります。

 

涙をぬぐいつつ、「ほらぁやっぱり・・・」

なんと悲しくも美しい淡い恋の物語と思いますよね。

 

 マディソンは一命をとりとめ、

 母親を心配させ、怖がらせたこと、

 ”普通の生活”を知ってしまったのにそれができない自分や

 恋人オリーと ”普通” を楽しむことさえできない自分への失望

 死への恐怖など

 諸々の理由からオリーに会うことも、メールも止めてしまいます。

 そしてまた引きこもった生活が始まり、月日は流れ・・・

 

クオリティ・オブ・ライフの物語ではなかったけど

やっぱり思った通り、悲恋物語だ・・・と思いますよね。

 

ところが

 救急処置を施したハワイの病院の医者から連絡があり

 マディソンに SCID の兆候は皆無、

 おそらく何かの間違いではないかと連絡が入ります。

 

・・・え?・・・

 

「そうなの?心臓まで止まったのに?まさかの無理やり急展開?」と疑いつつ、

これをどう解決していくのか、今後の展開にちょっとわくわく・・・

 

実は

 夫と息子を失ったマディソンの母親は、

 事故後に病気になった幼いマディソンまで失いたくないと

 彼女を重病人に仕立てあげて外界から一切遮断、隔離生活を強いたのです。

 

つまり

とても仲良しのこの母娘、

深い絆と溢れる愛情で結ばれていたと思いきや、

急転直下 まさかのどんでん返し

家族を失ったトラウマから立ち直れない可愛そうな、でも自分勝手な母親の歪んだ愛情、

病気(と信じ込まされた)故に、全てを母親に頼らざるを得ないマディソン、

その不健康な共依存関係だったことが露呈します。

 

「そう来ましたかあ・・そこまでは読めなかった」と驚きつつ

「そう言えば、ちょっとかじった心理学にこんな症状があったような。。。」と納得

そしてこの母親には身勝手と思いつつ、同情もわきました。

 

ちなみにこの心臓発作も、なるほどと理屈が通る説明がされます。

 

 マディソンは母親を問い詰め、ついに真実を知ります。

 そして、怒ったマディソンは母親を許すことができず

 母親の下を去り、オリーが移り住んだニューヨークまで彼に会いに行きます。

 

そりゃあそうでしょうとも!

幼年期も青春時代も学校生活も、恋や友情も”普通の生活” で起こること、

つまり何もかもを

母親の身勝手な嘘のために奪われてきたわけですから。

 

 2人の再会場所は古本屋です。

 

やっぱり黙って見つめ合うとか

クールな感じで「やあ、元気?」とか

思わず走り寄り、固いハグに滂沱の涙などなど

色々と想像しながらページをめくりましたが、

オリーと対面した時の様子も

彼が今どういう生活をしているのか、恋人はいるのか

今後マディソンとオリーはどうなるのかなどなどが、一切語られず

物語はここで終了。

 

・・・え?・・・

 

これまた「そう来たか・・・」

確かに何も語らない方が、想像は膨らみます。

 

”Everything Everything”

何もかもが嘘で、何もかも奪い、何もかも失い、何もかも再度得る物語

私の予想を何もかも満足させたかに見せて、何もかも裏切り

驚きの急展開をもって、何もかも納得した私はまさにサレンダー

まさに、何もかも網羅した小説でした。

脱帽!